高齢者を支える家族や、都市部と地方など親子が離れて暮らす世帯等に向け、生前整理・遺品整理や空き家活用などのサービスを提供する「ライフ・サポート南信州」。その高い公益性と、地域のつながりを生かした各種専門家との連携をめざす事業計画が評価され、長野県飯田市が開催する「令和元年度 飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」にて、準大賞を受賞しました。「たんなるモノの廃棄ではない、生前整理・遺品整理というサービスをもっと知ってほしい」と話す代表の城田克秋さんに、起業のきっかけや事業への思いを、実例を交えてお話しいただきました。
地域に密着し、ネットワークで支える遺品整理を|長野県 飯田市「ライフ・サポート南信州」城田克秋さん
父の突然の死と、母の介護。めまぐるしい遺品整理の経験が原点
━━ビジネスプランコンペティションの結果発表資料にて事業内容を拝見し、とても興味深い事業だと思いました。今一度、御社の取り組みについてご説明いただけますでしょうか。
城田克秋さん(以下、城田) はい。まずベースとなっているのは、運送業での経験ですね。これを生かして、引越しなども含めた運送事業を行なっています。建築業にかかわっていたこともあるので、空き家活用も行なっています。
━━そして、今回ビジネスプランコンペティションにて準大賞を受賞されたのが、家財(遺品)整理事業ですね。事業立ち上げのきっかけは、ご自身のご経験だったとか。
城田 はい。現在事務所となっている家に私の両親が住んでいたのですが、5年前に父が亡くなり、それと同時に母に介護が必要になって。慌ただしいなか、一気に生活を変えなければいけなくなってしまったんです。
もちろん、当時は勤めをしていましたので、母の施設を探すことから家財の整理まで、すべて私一人で行いました。モノの整理だけじゃなく、預貯金を含めた財産の確認も。結局、全部の整理がつくまで1年はかかりました。これは大変なことだと、はじめて実感したんです。
━━たしかに、たんなる引越しとは異なり、捨てるもの、残すもの、確認しなければいけないのにもう聞けないことなど、たくさんの作業と困りごとがありそうです。
城田 そうなんです。金融機関の通帳と判子の組み合わせも、どれがどれなのかわからない。まだなかなか、「エンディングノート」のように書いてまとめておく方も多くはないですよね。一番苦労したのは土地の所有関係の確認です。そして私はたまたま、当時暮らしていたのが両親の家の隣だったからまだ、行き来は楽でしたが、これがすでに県外に出られている関係性だったら、どうでしょう。飯田市でも2025年には65歳以上の割合が35%を超えると予想されている(※1)なか、これから求められる仕事だと思い、事業の立ち上げを決めました。
(※1)国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計)による
米びつの底から出てきた「がま口」と、故人の手紙
━━廃品の廃棄と遺品整理、改めてどういう点が異なるのでしょうか。
城田 いろいろありますが、まず関連する分野が多岐にわたる点ですね。もちろん廃品回収業者にも不用品の回収をお願いしますが、それだけではありません。まだ使えるもの、価値のあるものはリサイクル業者にお願いしたり、私も古物商の許可を得ているため買い取りをして代金から相殺して値引きをさせていただくこともあります。
また、長年の空き家の整理などでは仏壇を処分したいという方もいらっしゃいますので、これも信頼の置けるお寺のご住職にお願いをして「魂抜き」をしていただいたこともあります。「このまま処分してくれればいいよ」という方もいらっしゃるのですが、やはり気持ちが大切だと思うので……。さいわい、ここ飯田には信頼できる業者さんがいらっしゃいますので、よりスムーズで適切な整理ができるよう、こうしたたくさんの業界のみなさんとのネットワークづくりも進めているところです。
━━要不要の分別は、城田さんがご遺族とお話し合いのもとで進められるのですよね。
城田 はい。遺族の方のご意向を伺ったうえでですが、バサッと捨ててしまうのではなく、衣服のポケットの中一つひとつ、米びつのなかまできちんと確認をしながら要不要を分けていきます。
━━なんと、そんなところまで……! たしかにやりたいことですが、一人で整理していたら途中から投げ出してしまいそうですね。
城田 そうなんです。でも、このきめ細やかさがすごく大切な作業で。思わぬところからご遺族に宛てた手紙が出てきたり、お金が出てきたりするんですよ。先日、関わらせていただいた方のお宅でも、まさに米びつのなかからがま口と手紙が出てきました。お米は必ず食べるものだから、減ったときに用立てができるお金をと、生前にそっと入れておいたのでしょう。
━━なるほど……ご家庭ごとに、いろいろな物語がありそうですね。
城田 私が取得した「遺品整理士(※2)」という資格を取得するにあたっては、廃棄物の適正な処理の仕方はもちろん、「グリーフケア(※3)」についても学びます。目の前にあるのはモノかもしれないけれど、ご家族にとっては遺品であってゴミではない。そのような、価値あるものとして扱わせていただいています。
(※2)「一般社団法人遺品整理士認定協会(リンク:https://www.is-mind.org/)」による認定資格。
(※3)家族や恋人など大切な人を亡くした悲しみ、喪失感をケアすること
https://www.city.iida.lg.jp/uploaded/attachment/31012.pdf
「すべて捨てる」のではなく、リサイクル業者と連携し費用の軽減も
━━今日は実例も見せていただけるとか。
城田 はい。許可を取らせていただいたところのお話を。こちらは、80代のご夫婦がもともと飯田に住まわれていて、お子さんは有名な上場企業にお勤めで。都会で離れてお住まい、そんなケースでした。認知症のお母様をお父様がお世話していらしたのですが、先にお父様が亡くなられ、お母様は施設に入ることになって。これを機会に、家も売却してお墓も飯田から引き払いたいということでした。
━━お墓のことも……!
城田 そうですね、家は市の空き家バンクに登録をおすすめして、お墓はお寺さんにおつなぎしました。
━━本当に、ネットワークそのものがお仕事の大切な部分になりますね。
城田 もちろん、片付けの仕事そのものも大変ですけれどね。やはり、亡くなられた後なので、キッチンなども最初は、ついさっきまで使っていたのかな、と思うような状況でした。でも最終的には全て引き払って家を売りたいということでしたので、クローゼットもこのように全部きれいな状態にして。洋服も、傷んでいないものはリサイクルに出しました。
━━なるほど、使えるものは生かす、ということですね。
城田 はい。遺品整理士の資格取得のなかでリデュース・リユース・リサイクルという、いわゆる「3R」についても学びました。ゴミにしないことで、環境によいのはもちろん、出費の節約にもなりますね。
━━きれいになりましたね……。
城田 そうですね。しかも、ていねいに片付けていくなかで、お父さんの介護中の気持ちを吐露したようなお手紙も出てきたので、依頼主である息子さんに最後にお見せしました。離れて暮らしていたご両親の思いを汲み取る時間になったようで、終わったあとは「いい供養になりました」と言っていただきました。
「頼れる『情報のつなぎ役』でありたい」遺品だけでなく、暮らし改善の相談も可能
━━今後はどのように事業を展開していきたいとお考えでしょうか。
城田 ビジネスプランコンペに出させていただいた理由もそうなのですが、まずはこういう、「モノを捨てる」だけではない遺品整理という仕事、サービスがあることを知っていただきたいと思っています。遺品だけでなく「生前整理」ということで、ご本人からの荷物の整理依頼も受け付けていますので、お気軽にお声をかけていただきたいですね。
城田 実際、先日も障害のあるお子さんを育てているなかでお連れ合いに先立たれたというご家族について、ある障害者支援の団体さんから相談を受け、いわゆる片付けをお手伝いしました。このときは、継続して部屋の状態を維持できるように、この地域に暮らす「整理収納アドバイザー」の方をおつなぎしたんです。
━━なるほど、遺品にこだわらず幅広く、「暮らし改善」のような相談もよいんですね。
城田 もちろん、お待ちしています。こちらの方、半年ほどたったときに「その後どうですか」と依頼主である団体さんにご連絡したら、「片付けた状態が維持できています」ということだったんです。うれしいですよね。
今回のコンペ参加をきっかけに、私の仕事につながるような地域の起業家さんたちとも新たに出会うことができたので、これからまたさまざまな取り組みができる予感がしています。片付けの迅速さはもちろん、地域の『頼れる情報のつなぎ役』であれたらと考えています。
━━ありがとうございました。