LBSと長野県飯田市とのコラボレーション

昨年私はイギリス・ロンドンにあるロンドンビジネススクール(London Business School (LBS))に留学をしていました。LBSでは毎年、主に日本人学生有志が企画し日本への観光旅行を行っています。こうした日本への旅行は多くのビジネススクールで行われており、毎年、東京・京都・広島といった一般的な観光地を回るのが一般的ですが、今年LBSでは、史上初の試みとして、私も企画側として関わり、私の地元長野県飯田市(南信州)にて農家民泊(農泊)を行いました。世界38カ国からきたLBS学生128人が経験した長野県飯田市での農泊の内容と、そこでの外国人学生からのフィードバックから得られた気づきをお伝えします。

100人超の規模の外国人が一度に農泊するという全国でも類を見ない規模で行った農泊体験でしたが、今回のLBS学生による農泊体験は、受け入れ元の長野県飯田市とのコラボレーションの上で実現しました。

これまで長野県飯田市は、㈱南信州観光公社を受入れ窓口に、農家民泊を柱とする体験型観光の先駆地として、域外の中学・高校生らに対して農泊を提供してきていたものの、現在、農家民泊を含む国内からの観光需要は頭打ちの状況にあり、今後の観光振興のためには、インバウンドに向けた戦略的な取組が課題となっていました。そのような中で、飯田市は、今回のLBS受入の機会を、地域全体を巻き込んだ形で訪日外国人を呼び込んでいくための良い契機と捉え、「インバウンド農泊」推進に向け、外国人観光客からの直接的なフィードバックを得ることを目指しました。

有名な観光資源が特に無い中で、今後インバウンドを展開していくに当たっての最大の武器として飯田市が打ち出しているのが「地域の人々との交流」という要素です。農家民泊でも、128人の外国人学生を4人組に分けて、同地域の農家で「1日家族体験」という形で企画しました。

「本物の日本」を体験

当日は、夕方頃に各農家の方々のところにお邪魔しました。3月末だったこともあり、本格的な農業体験をするシーズンではなかったものの、32軒の農家のご家族が32通りのおもてなしを行い、茶室にて茶道を体験したグループもあれば、伝統工芸品を一緒に作ったグループもあり、一緒に五平餅などの伝統的な料理を作って晩御飯をとったグループもあれば、地元の獅子舞を体験したグループもあるなど、非常にバラエティに富んだ「一日家族体験」となりました。参加した多くのLBS学生からは、農家の方々の温かい心遣いに感動した、との声があがりました。写真はその内2グループでの、農家のご家族を囲んだ晩御飯でのショットです。

飯田市の農家民泊の様子 #1

飯田市の農家民泊の様子 #2
LBSの学生と受け入れ農家との「1日家族体験」風景。いずれも飯田市にて

 

また、LBSと飯田市は、地域観光プロモーションの一環として、世界38カ国からきているというLBS学生の出身国の多様性をうまくつかい飯田市の国際的な知名度向上に向けた取組みとして、LBS学生にfacebookやInstagram等のソーシャルメディアにおいて#visitiidaのハッシュタグをつけて、同市内での撮影した写真を投稿してもらい魅力の拡散も実施しました。

飯田市の農家民泊の様子 #3
SNSと連動した情報拡散の例

結果として、今回LBSが訪れた他都市(東京、京都等)にはない体験と交流を堪能した学生からは、「本物の日本(のライフスタイル)が体験できた」、「出会った人の温かさに感動した」、「美しい自然ときれいな空気が素晴らしい」等の感想が寄せられました。また、閑散期にある農業体験や美しい山々を歩いたり登ったりする体験も出来れば良いとの意見もあるなど、飯田市の地元の人々が気づいていない、地元の魅力や発掘して伸ばしていくべき観光資源を再発見することになりました。

今回地元をあげて受け入れに取り組んだ飯田市の人々も、地元の新鮮な食材を利用した食文化や伝統的な農家の暮らしも体験することができる農家民泊等を通じた、地域住民や地元高校生等との交流が、東京や京都といった日本の大都市や観光都市では経験し難い財産・価値として、訪日外国人に受け入れてもらえるとの手応えを感じています。また、今後改善すべき点等も多々炙り出すこともでき、インバウンド農泊推進・地方創生にあたっての全国に先駆けたモデル事例となりました。

Cool Japan Award 2017受賞、フランスINSEADの学生も飯田の農泊を体験することに

本企画実施後、今回の企画が「インバウンド農泊の先駆的取り組み」として認められた結果、長野県飯田市を含む南信州の「農家民泊」が、「COOL JAPAN AWARD 2017」(主催:一般社団法人クールジャパン協議会、後援:経済産業省、 外務省、観光庁)を受賞しました。「外国人が体験する日本のインバウンド型農業体験の農泊を最初に立ち上げ、先駆者的に日本で広めたという功績と先進性が認められた」ことによる受賞とのことです。

なお、「COOL JAPAN AWARD 2017」は、世界が共感する「COOL JAPAN」を発掘・認定し、海外展開・インバウンドにつなげていくために実施されているもので、今年で2回目の開催です。審査方法も、外国人にとって真に魅力あるプロダクトを「世界目線で」選出するべく、世界各国の100人の外国人審査により行われています。全国104件の対象の中から全26対象が受賞しています。南信州の「インバウンド農泊」を含む受賞プロダクトは、ニューヨークおよび台湾での展示会において展示が予定されています。

さらに、飯田市ではLBS学生農泊に続く第2弾として、在仏トップビジネススクールのINSEAD学生40~50名の農泊受入れを今年3月初旬に予定しています。インバウンド事業に強い関心を持つINSEADの日本人留学生と飯田市とを私がつなげる形で昨年9月から連携がスタートしました。「初めて日本に行く。どんな国かずっと楽しみにしていた」ブラジル人学生や「日本旅行は経験済み。だが、まだ知らない日本の素晴らしさを経験したい」イギリス人学生など、参加者が寄せる期待は非常に高いとも聞いています。現在、LBS農泊で得られたフィードバックを活用し、コンテンツ作りを進めており、日本のインバウンド農泊をリードするアイデアが生まれるのではないかと私も注目しています。

インバウンド農泊の大きな可能性、他方で受け入れ態勢の整備が必要

現在、国全体の話としても、今後訪日外国人観光客4000万人を目指し、京都・東京を結ぶいわゆるゴールデンルート以外にどうやって外国人を呼び込むかが観光業全体にとっても課題の一つとなっています。私は、農泊体験という体験型観光は一つのモデルとして日本全体に広まりうるし、そうした形で地方に人が遊びに行くような魅力ある地域づくりを、地域の観光資源を有効に使い、各自治体が競い合って行っていくべきではないかと考えています。また、農泊が6次産業化の一つの形としてもより認知され、一つの産業として発展していくべきだと思います。

例えば、ここイギリスでは、日本の農泊がFarmstayという形でより観光ビジネスとして成立しているようです。私自身もイギリスのFarmstayを体験しましたが、イギリス農家の方の広く、伝統的なお家に泊まる経験は非常に新鮮で、イギリス文化に触れる良い機会だと思いました。同じことが日本の農泊にもあてはまり、訪日観光客にとって地元農家の方々との交流を通じて日本文化に触れる新鮮でユニークな機会になると考えます。

他方で、上述の通り、今回の経験により、訪日観光客の農泊への受け入れにあたって、受け入れ側として考慮すべき様々な点が浮き彫りになりました。これまで国内の農泊は、農水省が推進してきたグリーンツーリズム、都市農村交流の文脈の中で、基本的には小中高校生向けの教育旅行としてデザインされてきていますが、今後訪日観光客も宿泊客として取り込んでいくにあたっては、農泊地域全体としての受け入れ態勢の整備が必要になってくるかと思います。例えば、食事に関しても、外国人観光客を受け入れる際には、ベジタリアンの方に配慮して、お客さん毎に食べられるもの食べられないものを事前に細かく聞いておいたり、メニューの表記に関しても、食材として何を使っているかなどを正確に英語表記するといった配慮が必要になります。また、英語でのコミュニケーションが十分できない農家の方々が多い中で、上記の食事に含まれる食材の確認のような必要なコミュニケーションを図るための事前準備、コミュニケーションの補助も必要になろうかと思います。農泊ならではの日本的な良さをいかに残しつつ、必要な受け入れ態勢を整備し、「本当の日本」を外国人観光客に体験してもらえるか、今後多くの地域で取り組んでいくことになるのではないでしょうか。

私個人としましても、今後も長野県飯田市でのインバウンド農泊の先駆事例の経験をベースに、インバウンド農泊を通じた海外と日本の各地方との直接の橋渡しに微力ながら貢献していきたいと思います。イギリスにいることを生かし、欧米におけるインバウンド農泊の各種プロモーションも実施していくことができればと考えています。ご自身の地域でも外国人を対象とした農泊体験を提供していきたい、とお考えの方はお気軽にご相談ください。

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