飯田にしかない味わいを屋台から

━━2020年秋に開催された「天龍峡マルシェ」で屋台の様子を拝見しました。小さな子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで、本当にたくさんの方が「おたぐり焼き」を楽しんでいましたね。

代田淳一さん(以下、代田) そうなんです。もともとは中高年配をターゲットに「酒のつまみになれば」という程度に考えていましたが、始めてみたら、小さな子も高校生の女の子たちもバクバク食べてくれる。まさに「飯田のソウルフード」だなと、嬉しい想定外でしたね。

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2020年10月に行われた「天竜峡マルシェ」。320人分のおたぐりを用意したが、イベント終了前に完売となった(写真=飯田市提供)

━━飯田下伊那ではごく当たり前に食べられている「おたぐり」ですが、この呼び名は全国的にあまり知られていないんですよね。

代田 県外の方から「おたぐりって何?」と聞かれることもしょっちゅうですね。通称「モツ」「ホルモン」と言われる豚や牛の内蔵を指す言葉ですが、飯田下伊那では「おたぐり」と呼ばれて愛されてきました。長い内臓をたぐりながら洗浄することから、この呼び名がついたと言われています。

━━「おたぐり焼き」専門の屋台を出そうと決めたのはなぜですか?

代田 飯田は”焼肉のまち”として知られていますが、焼肉そのものは全国にある。もっと中まで掘り下げて、飯田にしかないものを広めたいと思ったからです。このあたりでは馬のおたぐりを煮たものが有名ですが、豚のおたぐりを焼いたものも「オタ焼き」と呼ばれて親しまれてきました。また「黒ミノ」も全国的にはあまり知られていない飯田を代表する食文化のひとつ。ですから、豚の「おたぐり焼き」と牛の「黒ミノ」のふたつにメニューを絞って販売することにしました。

━━様々なイベントに出店を続け「行列のできる屋台」として知られるようになってきました。

代田 2020年はコロナ禍でイベントの中止が続きましたが、2019年は「焼肉ロックフェスティバル」や「クラフトフェア飯田」「りんご並木 歩行者天国」など1年で25回のイベントに出店させてもらいました。北海道から沖縄まで全国各地のお客さんと出合えますし「飯田にこんな美味しいものがあったの!?」と感動してもらえてうれしかったですね。

━━お客さんは県外の方が多いですか?

代田 いえいえ、60%以上は地元からのリピーターです。イベントのたびに足を運んでくれるコアなファンもいてありがたい限りです。

━━ 屋台なのに、驚異的なリピート率ですね!お客さんからの反響で印象に残っているものはありますか?

代田 「おたぐりは苦手だけど、このお店のなら食べられる」という言葉ですかね。また、東京のお客さんから「新橋にこの店出したら絶対人気が出るよ!ぜひ来て!」と声をかけていただいたこともありました。

━━ うれしい言葉ですね。

代田 同じ日に7回も列に並んでくれた高校生の女の子もいましたね。最後は僕の方から「もうやめたほうがいいよ」って止めたくらい(笑)何度も並んでくれる人には、徐々に量を増やしてサービスしていくんですが、その子の場合、7回目には容器から溢れそうなくらいたっぷりになって、すごく喜んで持って帰ってくれました。

落書きされた看板

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天龍峡マルシェでの屋台の様子(写真=飯田市提供)

熱い思いを胸に実現した人生のラストチャレンジ

━━ではここで、代田さんが起業されたきっかけを教えてください。

代田 会社勤めをしていた60歳くらいのころから「退職したら何をしよう」と考えるようになりました。結果、人生のラストチャレンジとして「小さくてもいいから商いをしたい」と思うようになったんです。店の親父とカウンターに座るお客さん同士が酒を交わしながら語れるような古き良き雰囲気の居酒屋ができたら、と思い描くようになりました。

━━飲食業の経験はあったのですか?

代田 いいえ、まったく。ほぼゼロからのスタートでした。もちろん「やりたい」という気持ちだけでは商売として成り立たないと分かっていましたから、それから3〜4年間は商工会主催の創業塾や起業塾、セミナーなど、片っ端から足を運びましたね。ほぼ全部の回に参加したんじゃないかな?

━━サラリーマンとして働きながら、すごいですね!

代田 休日の多くを費やしましたが、毎回、本当に楽しくて仕方なかったです。それと同時に自分のやろうとしている商売の難しさも学ぶことができました。僕はいつも中央の一番前の席に座って質問したり、発言もしていたからかなり目立っていたと思いますよ。

━━積極的だったんですね。

代田 僕の場合、人生あとがありませんからね。やるからには絶対に成功したいという思いがありましたし、その時から「すでに商売は始まっている」と思っていたのでとにかく目立って印象付けなければという気持ちもありました。だって、参加者や講師の方々も僕にとってはすでに「見込み客」でしたから(笑)

━━学んだことの中で心に響いたこと、影響を受けたことはありますか。

代田 一番響いたのは「モノではなく、コトを売る」という言葉。だから僕は今もどう儲けるかというより、どうしたらお客さんに喜んでもらえるのかを常に追求しています。お金を出して食べていただくのだから料理が美味しいのは当たり前。プラスアルファで何かがなくてはつまらない。お客さんの顔も出来る限り覚えて、忙しい時間以外は言葉を交わすように心がけています。また、お客さんに喜んでもらえるようなPR動画をYouTubeで配信したりもしています。

しろ田屋Youtubeチャンネル

━━ YouTubeを拝見しましたが、店のPRだけでなく「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」を飯田弁にした替え歌「田んぼのヨーコ ケロクボ ダサラ」や「手拭い七変化」など、思わず笑ってしまう動画がアップされていますね。

代田 ありがとうございます。以前にも、替え歌の動画を見たお客さんが屋台に足を運んでくれたことがあったんです。「動画がめちゃくちゃ面白くて、どんなおっさんがやっているんだろうと興味が湧いて来てみた」と。そういう反響はうれしいですね。「あそこにいくと面白い、ちょっと変わったおやじがいて楽しい」と思ってもらえたら最高です。

━━もともと、人とお話したり面白いことをするのは得意ですか?

代田 いえいえ。実は僕、すごいあがり症だし人見知りなんです。でも、こと屋台のことになるとスイッチが入って自分も楽しみながらやっていますね。それから、屋台を手伝ってくれているおばちゃんたちにも「いつも笑顔でいてね」とだけお願いしています。僕たちが楽しんでいれば、その気持ちがお客さんにも伝わりますから。まあ、これもセミナーや創業塾で習ったことの受け売りですけど。

━━受け売りだとしても、それを実践できるかどうかが一番大切な部分ですよね。

代田 そうですね。自分なりの「商売の哲学」みたいなものは、たとえ屋台であっても持ち続けなければいけない大事なことだと思っています。

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(写真=佐々木健太)

「夢」を「目標」に変えて。大切なのは動き始めること

━━2017年度「飯田市ビジネスプランコンペティション」で奨励賞を受賞された代田さんですが、受賞後の変化はありましたか。

代田 コンペの際のプランでは居酒屋(店舗)を構えるつもりでしたが、現実に店を借りるとなると固定費もかかりますし、年齢のこともあって妻に猛反対されてしまって。「僕はこんなにやりたいのに、どうしてやらせてくれないんだ!」と喧嘩になってしまったこともありました。最終的には「屋台かキッチンカーならいいよ」と許可をもらってスタートできたわけですが、考えてみたら居酒屋だと今みたいに子どもや若い子、おじいちゃん、おばあちゃんには楽しんでもらえなかったかもしれないですよね。結果的に屋台でよかったかなと今は思っています。

「飯田市起業家ビジネスプランコンペティション」でのプレゼンテーションの様子(写真=飯田市提供)

━━夜営業の居酒屋と違い、年齢を問わず楽しんでいただけますもんね。

代田 また、受賞したことで一番良かったのは「信頼」を得られたことですね。イベントに初めて出店を申し込んだ際、電話で説明したものの、明らかに訝しがられているなという雰囲気だったんです。ですから受賞の盾と新聞記事を持ってすぐに説明に出向きました。そうしたら、僕のしたいことを理解してもらえてスムーズに出店できたんですよね。以降も、営業に行く際はこの盾と記事を持っていくようにしています。僕にとってこの賞は「宝」ですね。

━━代田さんの熱い思いがこの賞を通じて伝わったということですね。ところで、お店のコンセプトは「昭和」ですが、なぜ今「昭和」なのでしょうか。

代田 自分が昭和好きなこともありますし、最近は若い層でも昭和に憧れている人が多いんじゃないかな。今と比べて時の流れもゆっくりしていて、あたたかい雰囲気があるような気がします。

屋台では割烹着とモンペを身につけ、手拭いを頭にかぶって、飯田弁丸出しで話すのが僕のスタイル。でも一方で、SNSやYouTubeなど現代的なことも積極的に仕掛けていく。そのギャップが面白いかなと感じています。

テーブルに置かれた下着

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(写真=佐々木健太)

━━SNS、YouTubeなどはもともと得意だったのですか?それとも起業塾などで学んだのですか。

代田 いえ、偉そうに話していますが、実は僕自身まったく操作できなくて。得意な仲間に頼んで、名刺のデザインからSNS、YouTubeまでやってもらっています。幅広い層に訴えかけていくためにもツールは多いほどいい。これからも周囲の協力を得ながら新しいこともスピーディーに取り入れていきたいです。

━━様々な場面で意欲的な代田さんですがそのモチベーションはどこからきているのでしょうか。

代田 僕はもともと「夢追い人」で、常に目標や目的に向かっていきたいタイプだからでしょうね。今年で68歳になりますが、平均寿命や健康年齢を鑑みても残された時間は決して多くはない。タイムリミットがある中で家族に迷惑をかけず、自分のやりたいことを楽しんで、やり残したことがないよう充実した日々を送っていきたいと思っています。

だって、人生は一度きりですから。

━━すぐに行動に移し、形にしているところが本当にすごいです。

代田 それは僕の力だけじゃなく、周囲の人に恵まれているからでしょうね。僕が乗っている三輪バイクの後ろに「しろ田屋」のロゴを入れてくれたのも仲間ですし、食堂をしている仲間もメニューの試作で協力してくれています。それに、商売を始めてからさらに世界が広がり、たくさんの方と知り合うことができました。素晴らしい才能を持っている方も多く、刺激をもらったり、協力してもらいながら今の自分がある。本当に感謝しています。

━━動き出したいとは思いつつ、迷って、立ち止まっている方はたくさんいると思います。夢を実現するためのアドバイスをいただけますか。

代田 僕なんかが偉そうに言えることではありませんが、一番大切なのは「考えるだけではなく動いてみる」こと。僕のように年齢が高い人こそ、すぐに行動すべきです。

どんな小さなことでもいい。夢を「目標」に変えて「そのためにもうちょっと頑張ろう」とか、体調が悪くても「絶対に身体を治して、やってやるぞ!」と思えたとしたら最高ですよね。

それに、もし不安で踏み出せずにいるなら勉強をすればいい。知識を得ることで自信がつきますし、行動にも繋がるはずです。

━━ありがとうございます。最後に代田さんご自身のこれからの目標を教えてください。

代田 僕の目標は、日本全国に飯田のソウルフード「おたぐり」を広めること。屋台の出店はもちろんですが、おたぐり焼きを真空パックにして、お土産ものや通信販売で全国へ発送できるよう商品化もすすめています。

また、地域を掘り下げていけばきっといいものがあるし、面白いこともできるはず。実はいま、仲間とファッション系のイベントも企画しているんですよ。まだまだ野望はたくさんあります。楽しみにしていてください!

ボトルを持っている

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お客さんからのリクエストを受け製造したしろ田屋オリジナル「辛口しょうゆのタレ」。自家栽培のニンニクと生姜を用い、肉の旨みを引き立てる味わいは、おたぐりはもちろん様々な料理によく合う。エスバード内「南信州まるごとショップおいでなんしょ」などで販売中(写真=佐々木健太)

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